マリア&セップ・ムスター
オーストリア / シュタイヤーマルク

オーストリア南部ズュートシュタイヤーマルク、スロヴェニア国境に近いロイトシャッハ村に、マリアとセップ・ムスター夫妻のワイナリーがある。18世紀の地図にも記録が残るこの土地で、1978年に両親が畑を取得して以来、家族はブドウとともに歩んできた。幼い頃から畑の仕事を身近に見て育ったセップは、醸造学校で理論を学び各地のドメーヌで経験を重ね、1990年に家業に加わる。1994年の事故を契機に人生観が揺らぎ、やがてバイオダイナミック農法と出会い、畑での実践へと向かっていった。
畑は冷涼な空気と地中海性の温暖さが交差する丘陵地にあり、石灰を含む泥灰岩土壌(オーポク土壌)が広がる。樹は自然な姿に近い仕立てで育てられ、土壌と植物の生命力を保つことが何より重視される。セラーでも野生酵母による発酵と木樽熟成を基本に、過度な介入を避けながらの時間をかけたワイン造り。彼らにとってワインは、数値で管理する対象ではなく、生きて変化し続ける存在である。人が前に出るのではなく一歩退き、土地と生命の働きを静かに見守る。その姿勢の中から、ワインの本来の個性が立ち上がると彼らは考えている。
ズュートシュタイヤーマルクについて
スロヴェニアと国境を接した生産地域で、オーストリア最南部にある。地中海からの湿って暖かな空気の影響で、年間降水量は1000mm前後と非常に多い。しかしブドウ畑は極めて起伏に富んだ地形の急斜面にあり、余計な水分は下方へと流れ去り、また標高が500~600mで冷涼なことが黴の繁殖を抑制しアロマの蓄積を助けている。粘板岩、貝殻石灰岩、泥灰土、砂と様々な土壌があるが、フリウリのポンカ、スロヴェニアのオポカと同様の「オーポク Opok」と呼ばれる石灰質を含む泥灰土、粘土、シルトとの混じった土壌が多い。かつては多産なヴェルシュリースリングが主要品種だったが、オーストリア大公ヨハン(1782-1859)がこの地に持ち込んだとされるムスカート・ジルヴァーナー、つまりソーヴィニヨン・ブランを、ロワールを模範にバリックで醸造することを試みる生産者が1980年代に現れた。その後モリヨン(シャルドネ)、グラウブルグンダーなども商業的に成功し、2000年代にはビオディナミに取り組む生産者達も現れる。 主な品種の栽培面積の割合はソーヴィニヨン・ブランが21.1%、ヴェルシュリースリングが16.5%、ヴァイスブルグンダーが11.4%、ムスカテラー9.9%、モリヨン(シャルドネ)8.6%、ツヴァイゲルト6.3%(2016年)。
オーストリアについて
オーストリアのワイン生産地域は国土の東側周縁部に分布し、緯度はブルゴーニュのコート・ドールからアルザスのオー・ランに相当する。ワイン生産地域は大きく三つに分けることが出来る。①北部のアルプスの森林に囲まれドナウ川が横断するニーダーエスタライヒ。②パンノニア平原に接して大陸性気候の影響を強く受けるブルゲンラント。③スロヴェニアの山地と同様に起伏に富んだ地形で、地中海からの暖気とアルプスの冷気がぶつかるシュタイヤーマルク。いずれも暖気と寒気がぶつかりやすい立地条件のため、近年は遅霜や雹で深刻な被害を受けることが増えている。この国は歴史的にはハプスブルク家が君臨したオーストリア・ハンガリー帝国の中心地であったことがワインとそれをとりまく文化を育んできた。1985年にノイジードラーゼーの生産者による不凍液混入事件で甘口ワイン市場が壊滅するという逆境が、かえってオーストリアを、伝統に縛られずに高品質を目指す好奇心旺盛で個性的なワイン生産国へと変えた。ビオロジックで栽培されるブドウ畑も約12%とヨーロッパで最も普及し、生産量は世界の1%にも満たないが、ビオディナミや亜硫酸無添加醸造、オレンジワインなどに積極的に取り組む生産者も少なくない。
Opok
オーポク
品種:ヴェルシュリースリング、ゲルバー・ムスカテラー、ソーヴィニョン・ブラン、モリヨン
植樹:1983~2002年
位置:標高430~480m
土壌:石灰、粘土シルト
醸造:手作業で収穫、除梗、圧搾。木樽(容量約1200Lと2400L)で醗酵。約10ヵ月後に澱引きし、木樽(容量約2400L)で約12ヵ月間熟成。
この地域特有の石灰質の「オーポク」土壌で栽培される、主に樹齢20年前後の樹勢の強い若木の白品種から生産。
品種構成や比率は毎年変わり、毎年樹勢が強めの樹から最初に収穫したブドウが選ばれる。
¥6600 (2022)
